降水確率は十五パーセント。天気予報士が信用できない情報を読み上げる。
この天気予報士は外すことで有名で、巷では的中すれば天変地異が起きるなんて言われている。
でも見方を変れば、常に逆張りをすれば百発百中なのでありがたい。つまり今日も雨が降る。僕はそっと洗濯物を取り込んだ。
最近雨の日がよく続く。雨といっても、降るのは決まってオレンジジュースだ。
数十年前にとある人がみかんを神様にお供えしたところ、お気に召したらしく、それ以来、雨雫はすべてビタミンたっぷりの液体だ。この気に入りようから察するに、おそらくそれはもう上等なみかんをお供えしたのだろう。それか真水に飽きてしまっていたか。今まで何億年もの間、雨と言えば真水だった。つまり神様はずっとミネラルウォーターを飲んでいたことになる。健康的ではあるものの、物足りないのもその通り。オレンジジュースにハマるのは仕方がないのかもしれない。
とはいえ、オレンジジュースを飲み続けるのはさすがに身体に悪い。今は神様が糖尿病にならないようにと、トマトやその他野菜をお供えしているらしいのだが、どうもお気に召さないらしい。そこで今はカロリーや糖分が調整されたみかんを供える計画が信仰されている。
僕としてはなぜ、みかんを供えているのにみかんジュースではなく、オレンジのジュースが降ってくるのか、というほうがとてつもなく気になるのだが、あまり重要ではないらしく相手にされない。ぶどうをお供えして巨峰ジュースが降ってきたらびっくりすると思うのだけれど、皆が気になるのは神様の健康面だけらしい。そういうものか、と僕はオレンジ色に染まりつつある空を見上げる。
テレビの中の天気予報士が、今日はみかん率が九十パーセントになる可能性が高いことを告げた。意味が分からないけれど、要するに雨のせいで地球全体がみかんっぽくなるのだろう。オレンジジュースの雨が降るようになった今、青い地球の姿はどこにもない。
そういえばオレンジ色が世界に広がったせいで、先日、夕日から文句が来たそうだ。
何でも、「自分たちの色彩情緒が失われることに関して深刻な懸念を抱いている」とのことだった。婉曲的な言葉の羅列だったので、この件は日本が担当することになった。もとはといえば、お供えしたみかんは日本のものなので、まあ尻拭いをしてやるというのも妥当なのかもしれないが、どうも面倒ごとを押し付けられたように感じてならない。そもそも私たち日本は日の出ずる国であり、元来、沈む夕日とは疎遠である。
この「距離が遠い」というのが話をさらにややこしくさせていた。伝わるまでに婉曲が二周も三周もするのだ。おかげでユーラシア大陸では竜巻が極端に増えたらしい。
最近はなんでも、土を耕すことに力を貸してくれているようで、経済的効果が注目されている。会ったことはないが働き者なのだろう。インドでは竜巻を利用した移動法が開発されたようで、省エネどころかエネルギーを一切使っていないのだからすばらしい。高所恐怖症にとっては地獄よりも怖いとのことだから、使うつもりは毛頭ないけれど。
毛頭といえば、青い髪色が激増した。理由は空の青さが減ったせいだ。活動団体名は確かブルーヘッドだか、ブルースカイヘッドだが、そんな感じの特に捻りのないつまらない名だったはずだ。
要は、青い空を自分の頭の上に作ってしまおうということらしい。空が近いことは魅力的だが、ずっと青空でいられるのも困るだろう。たまに曇り空が恋しくなるもの人生じゃないのか。
そう彼らに問いかけたことがあるのだが、そういうとき彼らは髪を一部分だけ白く染めるらしい。それはただの白髪ではないかと僕なんかは率直に感じてしまうのだが、若者たちにとってはそうではないらしい。感性は時代とともに変わると言うが、なんのことやら。人間の感性が完成するときは訪れるのだろうか。
途端、世界が揺れ、地面が裂け、奥底から橙色のごつごつした皮が表出した。
そうか。
僕は洗濯物を外に干し直した。